うちの事務所のインターホンは、ずっと鳴らなかった。
古い一軒家を友人から借りていて、
壁に埋め込まれたタイプのインターホンは、
もう何年も前に沈黙したままだった。
来客があっても気づけず、
「すみませーん!」という声が風に乗って聞こえるたびに、
「ああ、直さなきゃ」と思いながら、何か月も過ぎていった。
ようやく動いたのは、この秋のはじめ。
父に頼んで、新しい呼び鈴を取り付けてもらった。
電池も配線もいらないタイプで、
ボタンをぐっと押し込むと、その力で中の歯車が動き、
わずかな電力が生まれて無線で信号を送る。
室内の受信機がその電波を受け取り、
「ピンポーン」と軽やかな音を鳴らす仕組みだ。
初めて鳴ったとき、
なんだか胸の奥までスッと風が通ったような気がした。
誰かが来て、呼びかけてくれて、
それにちゃんと気づけること。
それだけのことが、こんなにも嬉しいとは思わなかった。
鳴らなかったものが、鳴るようになる。
それは、止まっていた時間が少し動き出す瞬間でもある。
仕事も、人生も、
たぶんそんな“小さな修理”の積み重ねなのかもしれない。
🐾まねまるの一言
「ピンポーンって音、
“まだ大丈夫だよ”って世界が返事してくれたみたいだったニャ🔔」
この記事へのコメントはありません。